史上初のサイエンス・フィクションSFとうたわれる小説、『フランケンシュタインFrankenstein; or, The Modern Prometheus』(Mary Shelley, 1818)は原作の発刊から200年以上経た今でも広く知られて、同作をモチーフにした創作・脚色も活発に行われている。しかし、死体をつぎはぎして造り上げた被造者に恐怖なイメージを与えて大衆的に広めたのはメリー・シェリーの原作ではなく、映画《フランケンシュタインFrankenstein》(dir. James Whale, 1931)であると名指される[1]―そして大衆がフランケンシュタインを科学者ではなく被造者の方に誤認識させたきっかけに《フランケンシュタイン》の続編《フランケンシュタインの花嫁The Bride of Frankenstein》(dir. James Whale, 1935)の命名ミスを指摘する意見もある[2]。とにかく、現代の大衆文化において「フランケンシュタイン」が象徴するのは自然法則に逆らって技術を乱用する人間自らの不安をそそるグロテスクなイメージであることは否めにくい。

TVアニメシリーズ《鉄腕アトム》(dir. 手塚治虫, 1963~1966)の第1話で天馬博士がアトムの完成に至る場面はフランケンシュタイン博士が被造者に命を吹き込むシーケンスと似ている。緊張感を盛り上げる音楽と狂気に浸かった科学者の驚嘆、そして電気の送出によって動き出す被造物。これらの構図は究極的に、おそらく世界中で最も広く知られた、ヘブライ聖書の創造神話を原典にしているのだろう。

「神はお造りになったすべてのものを御覧になった。見よ、それは極めて良かった。」(創世記 1:31 新共同訳)「主なる神は、土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。」(2:7)

息の代わりに電気信号を送って生命を宿すこと、被造物を眺めて良しとすること、その過程で神(の定め)を媒介しないこと。ギリシャ神話においてもピグマリオンの彫刻像に生命を与えるのはアフロディーテの仕業であることを踏まえよう。このように、古代神話と近代の映像物を比べると、人造人格の創造物語に現る近代性が見えてくる。神と自然の座に人間と技術を置くのだ。その挑発性を語り手も意識しているのか、上述したように鑑賞者側の不安さを増して行為の危うさを強調する方向へ演出が行われる。

一方、原作『フランケンシュタイン』における被造物は今時の大衆に想像される恐怖的存在ではない。彼は教養と知性を兼備した人物として描かれる。SF作家のキム・ボヨンは「シェリーが自分を投影した対象はおそらく『科学者』ではなく『怪物』であっただろう。名前すら得られず、努力しても社会に受容されない姿は、天才的才能にも関わらず女性という理由で社会に編入されなかった彼女の生涯を代弁する」と論評する[3]。映画《フランケンシュタイン》から広まったモチーフは創造者と被造物の位階的関係を明確に現していることを踏まえると、フランケンシュタインの被造者に感じる恐怖は本当にそれが殺人を行うからに過ぎないのだろうか? ローズマリー・ガーランド=トムソンRosemarie Garland-Thomsonは「フリーク・ショーfreak showの一番露わな効果は多様な身体の間の明らかな差を削除し、他者としてのフリークというただ一つの記号の下に彼らを融合したところ」であると述べる[4]。これらの言説を踏まえると、フランケンシュタインの被造者は女性・障害者・移民者など、市民社会から疎外された人々の表象として十分読解できる。

飛躍を伴うが、神にもなり得る「人間」は社会参画のできる市民だけを考慮するもので、それによって規定(=被造)される側の力・知性・欲望は市民を脅かすものとして他者化される。脅威と排除の階級的構図が現代の大衆の受け入れる様で再現される様子は、アイロニカルと言ってよろしい。


[1] Oliver Pfeiffer, “Why are film-makers so fascinated by Frankenstein?”, BBC Culture, 2016.03.07, https://www.bbc.com/culture/article/20160202-why-are-film-makers-so-fascinated-by-frankenstein.

[2] Richard T. Jameson, “Frankenstein and The Bride of Frankenstein”, The A List: The National Society of Film Critics 100 Essential Films, Da Capo Press, 2002; via “Index of Film Essays and Interviews”, Library of Congress, https://www.loc.gov/static/programs/national-film-preservation-board/documents/bride_frank.pdf.

[3] 김보영, “[SF, 미래에서 온 이야기] 1818년 21세 여성의 손에서 탄생한 최초의 SF”, 한국일보, 2017.06.03, https://www.hankookilbo.com/News/Read/201706030433848243.

[4] Rosemarie Garland Thomson, Extraordinary Bodies: Figuring Physical Disability in American Culture and Literature, Columbia University Press, 1997; Eli Clare, Exile and Pride: Disability, Queerness, and Liberation, Duke University Press, 1999.